2002年01月21日

遅ればせながら『A BEST』について

以下の文には一部、読者のご指摘により、後日手を加えた部分があります。(最終更新:2002年2月24日) 

I am ...』が出た。さっそくピリ辛を書こうと思ったら、まだ『A BEST』について書いていないことに気づいた。時機を逸した感もなきにしもあらずだが、逆に、書くなら今しかないわけで、『I am ...』の感想を書く前に、今回は『A BEST』についてまとめようと思う。今の時期だからこそ見えてきたものもあるかもしれないということで。

A BEST』はベストアルバムなので、収録曲ひとつひとつの評価をあらためてするつもりはない。論点は大きく次の3点に絞られる。
(1) 選曲
(2) 曲順
(3) 再録音

(1) 選曲
・「poker face」はなぜ選から漏れたか?
まず目を引くのは、デビューシングル「poker face」が収録されていないこと。 これは最初のベストアルバムとしては異例かもしれない。じょいじょいが思うに、今ここにいる「浜崎あゆみ」はまだそこにはいなかったという思いがayuにあるのかもしれない。半ば自暴自棄でアイドル的女優を辞め、街をぶらつく毎日から、専務に見いだされて幸運にも歌手としてデビューすることができた。しかし、その当時は専務に言われるままに詞を作り、勝手に曲をあてがわれ、勝手にデビュー曲の選曲をされ、デビューの日時を決められ、…という感じだったに違いない。まあ、これはたいていの新人歌手がそうなのだが、ほぼセルフプロデュースまでできている今のayuにとっては思い入れの少ないデビュー作だったのだろう。それはたとえば野口五郎のデビュー作は本当は「博多みれん」なのだが、世間的には「青いりんご」だとか(古い話ですんまそん)、ZONEのデビュー作が実は「secret base」ではなく、「GOOD DAYS」あるいはインディーズ時代まで含めると「believe in love」だとかいうことと同様といっていいかもしれない。

いまあらためてその詞を読み返してみると決して悪くない。いまのayuの下地は確かに感じられる。ただ「習作」と言われればそうかもしれない。いやむしろ、その後にリリースされた諸作品の水準がどれも非常に高いという方が正しい。ベストアルバム十数曲に、どうしても落とせない作品から拾い上げていったら、「poker face」が入りきれなかった… そういう意味からすると、今回の選曲は非常にバランス感覚のとれた選択だったとじょいじょいは思っている。ただ「それでも記念すべきデビュー作は外すなよ」という巷の声は聞こえてきそうだ。

なぜ「A Song for XX」が再録音されたか、というまた別の論点ともつながってくるのだが、選曲に関して言えば、このベストアルバムのayuにおける位置づけ、意味づけから紐解くのが近道だと思う。
最初に結論めいたことを言うことになるが、このベストアルバムは、デビューから今までのayuの足跡を辿っていくBiographyではなく、「今あなたの目の前にいる"浜崎あゆみ"というアーティストの自己紹介」なのだ。 そう考えると「poker face」がばっさり切り捨てられたことも合点がいく。いまのayuを語る上で「poker face」はたとえそれが記念すべきデビューシングルであったとしても重要ではないのだ。

・「YOU」はなぜ切り捨てられたか?
じょいじょいの知る限り、「YOU」はずっとayu自身のベスト3に入っていた作品だった。少なくとも2000年元旦の番組では、「Boys&Girls」と並んで「YOU」を挙げていたのを覚えている。初期の頃からのファンもこの作品に思い入れのある人は多いと思われる。じょいじょいもそのひとりなので、正直、今回のベストアルバムに「YOU」が収録されなかったことにショックを受けた。

YOU」はayuの当時の親友で一時期同居していたnatsukiさんのことを歌ったと言われている。そのことから、natsukiさんとの決別がこの作品を切り捨てた理由といわれることがある。これについては肯定も否定もするネタを持ち合わせていない。そもそもnatsukiさんとの間に確執があったのか、その後もふたりの間に何らかのわだかまりが存在するのか、その後も全く付き合いがないのか、など単なるファンには知りようもないことが多すぎる。ayuがコンサートのMCの中で親友との別れについて語ったとも聞くが、ayuの発言のニュアンスから勝手に想像を膨らませて尾ひれを付けている部分がないか自戒したい。ただ穿った見方をすると、確かに結果的に今回のアルバムからはすっぽりと「natsukiさん的友情」の影が消え去っているといえなくもない。

ただ、いずれにしても、「YOU」が「古き良き時代のayu」の作品であることは間違いない。ayuがこの作品をベスト3に挙げてきたのも、これが「いまではもう決して書けない」類(たぐい)の純粋な友情を全肯定的に描き得た、ある意味他の代表作とは別格のものだからであり、それ以降の他のayuの「王道」をいく作品とは異質なものといえるだろう。ayuがこの作品をあえて採用しなかったのも、「今あなたの目の前にいる"浜崎あゆみ"というアーティストの自己紹介」としては、そういう異質さが気になったからという理由もあるのではないか。

ただ、ayuをデビュー当時から支えてきたファンの心理を考えたとき、やはり「YOU」を収録してほしかったとじょいじょいはつくづく思う。

・不採用のシングル、採用のアルバム収録曲について
初期のシングルの中から2曲程度を採用するという選択は全体の中での割合として妥当だと思う。では実際にどの曲を採用するかというと、途端に難しくなる。だからayuが最終的に「世間に一番知られているから」という理由で「Trust」と「Depend on you」を選んだことに反論する理由は全くない。売上だけ考えても初期の作品の中でこれらは他の倍からそれ以上の数字を出しているし、TVなどでの露出度も多かったようだ。
じょいじょいとしては個人的にどうしても「YOU」だけは外したくなかったし、「For My Dear」も捨てがたいが、収録曲の都合上仕方のないことだと思う。

初期作品以外のナンバーについては、「kanariya」が詞の面でも曲の面でもayuの一連の作品の中では異色なだけに、採用されなかったのが残念だ。ayuの作品の裾野の広さを示すのにはちょうど良い素材だと思うのだが。ただ、これも収録曲数と「これがayuです」という目的の両方を考えれば仕方のない選択かもしれない。
また、「A」は4曲のシングルから成るが、今回採用されたのはそのうちの2作品だった。採用されなかった「monochrome」と「too late」も根強い人気のある作品だが、これも同様の理由で頷ける選択だったと思う。

一方、シングルカットされなかったが今回のベストアルバムに収録された作品としては、「A Song for XX」と「Who...」がある。これについては文句のつけようがないだろう。ayuを語る上で絶対に外すことのできない名曲だと思う。これらがともにシングルとしてリリースされなかったのが不思議でもあり、逆におもしろい。
また、 もしも収録曲に余裕があれば、ぜひとも「ever free」と「immature」を入れてほしかった。
こういった意味で、ayuのこの時期でのベストアルバムということなら、2枚組にする必要があったのかもしれない。

(2) 曲順
ベストアルバムの通例にしたがって、ほぼリリース順に収録されている。これについては特にコメントすることはない。ちょっと違うのは、最初と最後だけこの順番を崩しているところ。最初が「A Song for XX」、締めくくりが「Who...」。これはayuファンにとっては涙ものの構成であり、十分納得できる「破綻」といえる。
こういうせっかくほぼ編年体になっているところにあえて手を入れてしまうところが、いかにも根っからの「女優」、自らを演出せずにはおれない性格を感じさせ、なかなかおもしろい。

(3) 再録音
・再録音の是非
このベストアルバムでは、「A Song for XX」と「Trust」、「Depend on you」の3作品についてボーカルも含めて録り直しを行っている。また、公式発表はないが、「End roll」も実はボーカルの録り直しを行っている。

ベストアルバムで録音し直しというのは、はっきりいって「掟破り」だと思う。それでもayuが踏み切ったのは、やはり先程述べた 「今あなたの目の前にいる"浜崎あゆみ"というアーティストの自己紹介」という命題が大きく物をいっているのだと思う。ayuの「世間的常識」を物ともしない心の強さが、それを強力に支えていることは言うまでもない。

上で挙げた最初の3つの作品については、デビューして半年間に作成されたものばかりで、ボーカル技術としては確かに稚拙なものを感じる。ayu本人の言葉でいうと「一生懸命音を外さないように」とばかり気を使って歌っているようなところがある。
しかし実は初期のayuファンはそういうayuの歌唱、線の細さにある種の緊張感のピンと張りつめた雰囲気が混じり合った独特のハイトーンボイスに、なにがしかの感動を覚えてファンになっていったともいえるわけで、一概に技術が未熟だからということで切り捨てることはできない。

だから個人的には今回のベストアルバムでその辺をいじってほしくなかった。過去のayuも確かにayuであり、それを否定するような、悪くいうと「経歴詐称」的なことはしてほしくなかった。(あえてひどい表現を使った)
もしも過去の音入れが気に入らないのであれば、今回のベストアルバムとは別に、音を入れ直したアルバムを出せばいい。今までのアーティストだって、そうやって来たのだし、手を変え品を変えて次々とアルバムを出すのはそれこそavexにとっては得意中の得意のはず。

・再録音版の評価(「A Song for XX」、「Depend on you」)
ayuは以前に比べて歌が格段に上手くなったといわれる。声質や声の出し方は別にして、確かにボーカル技法についてはいろいろと吸収しているようだ。しかし、技術というものは、音楽に限らず、ただ吸収しただけではだめで、それが無意識の域にまで同化しなければ、プロとして、目(耳)の肥えた識者を満足させることはできない。宇多田ヒカルがすごいのは、あの歳でそのR&Bとも演歌とも言えぬ独特の情緒的雰囲気を完全に自分のものにしている点にある。そこには微塵も「技巧」や「作為」を感じさせない。ごく自然に自分を表出しているようで、その実、豊富な経験と技術によって強力に裏打ちされているのである。

それに引き替え、ayuが「A Song for XX」や「Depend on you」などの新録で見せているテクニックは、「はい、ここで私は私が技巧と思っているものを使いました」、「ここで私はこの技巧を使ってこのような効果を出そうと狙っています」と語りかけてくるような技巧の使い方であり、鼻につくとともに、聴いているこちらがちょっと気恥ずかしくなってもくる。ちょうどまだ駆け出しのマジシャンが、観客にネタがばればれなのも知らず、一生懸命マジックを演じているのを白々しくも応援しながら黙って見守っている観客の心境といえばいいか。もちろん、タネに気づいていない観客にとってはすばらしいマジックショーなわけだが。

この「自分のものにできていない」技巧をわかりやすい例で示すと、たとえば、「Depend on you」でいえば、「そこからふたりで〜始めよう」の「〜」の部分とか、「本当はまだ遠いこと気付いたの? 」の「?」の伸ばす部分、「A Song for XX」でいえば「居場所がなかった〜」の「〜」の部分や「未来には期待できるのか〜わからずに」の「〜」や「一人きりで生まれ〜て、一人きりで」の「〜」の部分がそうである。

さらにこの「ピリ辛」でも再三言ってきたことだが、深刻さを強調する過剰表現、絶叫調の歌い方も同様の逆効果を感じる。さきほど例に挙げた「未来には期待できるのかわからずに〜〜」の「〜〜」の伸ばし方や声を無理矢理喉の奥から出して、わざとかすれた声を加える歌い方がそうだ。

と、ここまで散々悪口に近いことを書いてきたが、しかし全体として新録の「A Song for XX」が以前のものより劣っているというつもりは毛頭ない。旧録の欠点である歌い方の稚拙さを十分補い、作品としての質を上げることに成功していることは間違いない。ただ技巧が技巧として見え隠れしてしまうために、この作品の長所である、純粋さとか一途さが逆に失われてしまう結果になっている部分も見られるということだ。

・再録音版の評価(「Trust」)
もうひとつの新録「Trust」については上記のような技巧の中途半端な適用という欠点はほとんど見られない。では、こちらは新録の方がいいかというと必ずしもそうは言えない。
ayuのバラード系の歌い方は、一昨年の後半あたり、いろんな歌番組や賞がらみの番組で「SEASONS」をくり返し歌うようになった時期に劇的な変化を見せた。それまでは地声によるノンビブラートの直線的な歌声だったのに、その頃から、ビブラートを聞かせた柔らかい歌い方に変わってきたのだ。この歌い方と、4年近くの歌い手としての経験からくる余裕が、「SEASONS」の魅力をさらに引き出す役割を果たしてくれた。その成果がこの「Trust」の新録にも生かされているわけだが、 問題は、じょいじょいが「Trust」に感じていた魅力が、この改良によって逆に失われてしまったと感じるところにある。少なくともじょいじょいにとって、この「A BEST」版の「Trust」はもはやオリジナルの「Trust」とは別の作品だと感じられるのだ。
じょいじょいにとって、この作品の魅力は、孤独に生きてきた自分が、万感の信頼を寄せることのできる伴侶を見い出せた喜びと、そこから生まれた強く生きていこうという新たな意志とを絶妙な言葉と曲で表現し得ているところにあると思っている。ところが、新録の「Trust」では、その歌い方が悪い方に影響して、独りで生きていこうとする強い意志が希薄になり、女性的な相手への依存心が表に出て、俗世間的な恋愛ソングに近いものになっていると感じるのだ。

・再録音版の評価(「End roll」)
End roll」は正式には再録音と認められていない。しかし、注意深く聴いてみると、ボーカルだけ録り直していることがわかる。特にサビの部分がわかりやすいと思う。

この歌を録り直した理由はわからない。オリジナルに難があるとは決して思えない。もしかしたら、『LOVEppears』で「Who...」の後に「kanariya」をこっそりシークレットトラックとして封入したように、ファンサービスの一環としてのいたずらっ気が今回の「End roll」の撮り直しの理由のすべてかもしれない。いずれにしても、この再録はなかなか良い出来だと思う。この作品に関する限り、ayuのボーカリストとしての成長ぶりがうまく生かされており、前述したいくつかの欠点はほとんど現れてこない。「End roll」をますます好きにさせてくれた。

(4) おわりに
A BEST』は宇多田ヒカルとの同時発売、「世紀の歌姫対決」という話題作りと相まって、400万枚超という空前の売上を達成した。この数字はHikkiの1stアルバム700万枚超や、B'zのベストアルバム500万枚超などには及ばないとはいえ、やはりものすごい数字には違いない。そして、こうやって改めてそのラインナップを眺めてみると、ayuがいかにすばらしい楽曲に恵まれてきたかということが実感される。失敗作といえる作品がほとんど見あたらない。と同時に、では楽曲さえ良ければそれでこれだけ売れたかというとそうではなく、やはりayuの作詞能力と独特の歌唱があってこそ、これだけの優れたベストアルバムが結実されたといえるだろう。さらに作詞能力といっても、一般的なJ-POP音楽がどちらかというと紋切り型の空想物語を想定した上で、その一断片を薄く切り取っている印象があるのに対して、ayuのそれは、自分自身の精神世界、生き方をそのまま言語化してさらけ出し、聴き手と共有化することに成功している。その精神世界は底なしの暗黒の闇、透徹した孤独を想起させるが、にもかかわらずそれが決して絶望に終始せず、未来のかすかな明かりの存在を常に模索しているところが、聴き手に独特のカタルシスをもたらすのだと思う。『A BEST』はこの独特のayuワールドを効果的に堪能できる作品に仕上がっている。
ayuloveayu at 00:00 │Comments(0)TrackBack(0)ayuのピリ辛いため 

トラックバックURL

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
ayuの早耳情報
コミュニケーション
管理人からのメッセージ
管理人の日記 (Blog)
当サイトについて

管理人:じょいじょい
副管理人:HMV


Copyright 1999-2007 Joijoi.
All rights reserved.
コンテンツの著作権は作成者(投稿者/管理人)に帰属します。
コンテンツの無断転載・使用を固く禁じます。

管理人のプロフィール
過去記事(月別)
最新コメント一覧
最新トラックバック一覧